
2022年リリースされた曲(2021年末にリリースされた曲も含みます)でよく聴いたものとその思い出など書いていきます。
NewJeans // Attention
250 // Bang Bus
年季の入ったK-POPファンから熱狂的な注目を集めるNewJeansですが、f(x)~Red Velvetから連なるSM TOWNの最良の部分を感じる世界観の作り込み、これは確かに唸らされますね。一方でこの熱狂を、あまりにも若すぎる演者らが引き受けることと、巨大化し過ぎたK-POP産業とファンダム文化の負の側面を、それこそ年季の入ったK-POPファンこそ憂いざるを得ないという状況もあるようですが……。
にしても、とにかく曲が、トラックが素晴らし過ぎ!Attention始めHurt、Hype Boy、そして現時点での最新曲「Ditto」も手掛けたプロデューサーの250(イオゴン)。BTSやITZYにも曲を提供しているK-POPの売れっ子プロデューサーながら、この人が今年出したソロアルバムが非常に挑戦的な内容で、ポンチャックを始めとした「K-POP紀元前」な韓国のドメスティックな歌謡曲──大文字のポップ史には恐らく残らないであろう、大衆に愛されながらも忘れられた音楽──を蘇らせた内容。日本ではキワモノ的に紹介されたポンチャックが、NewJeansやBTSを手掛けるようなプロデューサーの手によって、このような形で再構築されてるという点でもう相当ぐっとくる、が、そういう成り立ちを知らなくても”Bang Bus”から感じられる情熱的なユーモアと音の粒立ちは「これ何?」と立ち止まらざるをえない完成度だと思いますが、どうでしょうか。
tofubeats // PEAK TIME
tofubeats // Vibration feat. Kotetsu Shoichiro
『FANTASY CLUB』からの『RUN』を聴いた時は、カラッと風通しのいい、チカラの抜けたアルバムになってるな~という印象でしたが、コロナ禍を経てのトーフビーツの久々のフルアルバムは、更にカラッと乾いた内容で、磨き上げられた音質の統一感、CDとして聴くとちょうど気持ちいいボリュームと構成(1~3曲目の滑るような流れ、終盤に5分以上の長さの曲が密集してる所とか面白い)、一切ベタベタした所がない。ベタベタした所がない、というのが自分の今年の求める趣味なのか、音楽全体の今年の傾向なのか、そういうモードは感じますね。
と言いつつ、このアルバムについては私自身ラップで参加し、リリースライブも配信で参加し、MVも作って、更にインタビューもするという、一回の客演で何回しがむねんというインサイダー極まるガッツリとした絡みぶりで、アルバムそのものの話をす整理して語るにはまだもうちょっと時間がかかりそうなんですが。でも普通にヤバいアルバムだと思う。
STUTS // One feat. tofubeats
2022年はアルバム以外の仕事もめちゃくちゃ多かったトーフビーツの中でも、これはよく聴いた(シングルとしてのリリースは2021年末ですが)。このアルバムの『Storm(feat.KMC)』も、『大怪我』ラテンエディットとでも言うべきトラックが泣けて良かった。そういえばKMCさんのアルバムも良かった。MikikiでKMCさんとOMSBの二人を迎えてのインタビューという記事を書いたんですが、結構今までの文章仕事の中でも一番歯切れよく出来たかも知れない……。二人の人柄のお陰でしょう。
OMSB // 大衆
そのOMSBが今年リリースした『ALONE』も。この数年に出した2枚のEPからはエントリー無く、全て新曲という構成にも驚きましたが、内容も素晴らしかった。でもこの良さを今の所うまく言葉にできない。「仲間外れじゃなくて/元々ここにいなかっただけ」というラインは、人によっては凄く希望があるようにも、寂しいようにも聴こえるけど、自分にとってはどっちかまだ決められない。文脈的には前者の意味で出てくるフレーズだと思うんですけど、頭から順番にリリックを追うように聴いてきた時に、このフレーズが出た時のスッと心臓を掴まされたような心地が忘れられない。
『ゲゲゲの鬼太郎』の、鬼太郎誕生のエピソードで、生まれて間もなくは墓場で自分を拾った人間に育てられた鬼太郎が、人間の生活に馴染めず疎んじられ、目玉おやじと共に育ての親の家を出ていくシーンがあり、その時の目玉おやじの「こんな不自由な所は出よう/外にはおけらだとか死人だとかお化けだとか話のわかる友人がたくさんいる…さあ行こう/どこでもいい きのむくままに…」というセリフがあり、地味ながら好きなシーンです。諦観を経たからこそ得られる、わずかではあるが確かな希望とでも言うべき不思議な明るさがあり、オムスの作品にはいつもそういうものを感じる。SUMMIT Themeでラップしてた竹中直人「笑いながら怒る人」のネタじゃないけど、2つの感情がぶつかり合ってそこからエネルギーを生んでるというか。
Daphni // Cherry
4小節、いや2小節、いやさ1小節でいかに耐久性のある、炊きたての白米のごとき、繰り返しても飽きないループを作るか?というダンスミュージックを作る上での命題に対する、2022年における解の一つがこれではないでしょうか……という大上段が不似合いなほど、風通しのいい、ベテランならではの軽やかさのある作品。ManitobaやCaribouなどの名義を使い分け2000年代前半から活動しているカナダのプロデューサーDaniel Snaithが、2011年以降使っている名義の新作。よりジャンルレスでその時その時の衝動を追求する不定形な音楽性のプロジェクトらしいけど、なんだかんだダンサブルな4つ打ちの作品が印象強い気が。
表題曲の、せわしなくリフレインするライヒ風のFMシンセを前景に、ゆったりとしたベースラインを後景に据えつつ、派手な展開はなくとも各パートのレイヤー構造の微妙な奥行きの変化でジワジワと聴かせる展開の上手さ……シビれる~。
Louis Cole // I’m Tight
ポップとポップスのグラデーションをかき回しながら、インディーな初期衝動と職人的なこだわりの間を自由に行き来し、アルバムで聴かせるためのファンクを作る、という意味で、プリンスの遺伝子を強く感じたLAの奇才ドラマーの新作。
日本での最初の紹介者はキープ・クール・フールだと思うんですが、Louis Coleはこの10年近くずっと高く評価されているし、Genevieve Artadi(Louis ColeとKNOWERというデュオを組んでいるヴォーカリスト)のバンドFame Cultの音源は今でもたまに聴いてるんですが、Louis Coleについては何となくそこまで聴き込むことがなく……なのでこのアルバムも、一聴した時は「シュッとしてるな~」という軽い印象で、衝撃を受けるという感じではなかったんですが、気づくと何故か繰り返し聴いておりました。一見してすぐわかるちょっとしたユーモラスな演出や人脈~周辺シーンの盛り上がりなど、キャッチーな話題性あるポイントは多いけれど、音楽そのものはかなり掴みどころのない、上手く説明しようとすると難しい内容な気がする。ポップ/ポップスの優れた作品は往々にしてそういうものかも知れませんが。
Keita Sano『Love Hate Love Think』
https://madloverecords.bandcamp.com/album/love-hate-love-think
岡山が生んだ快男児Keita Sano、数年前からハウスに留まらない作風の変化(ハウスの中でも幅広く作ってましたが)が著しいですが、CDやカセットでもリリースされたこれは強烈でした。ジャングル、ブレイクビーツ、ダブ、全部を歪ませて、切って繋いで、最後にもう一度歪ませたような……一時のThe Bugにも通じるような、ベース・ミュージックの曼荼羅となって迫りくる。
一方でBandcampでは、初期から一貫した生々しい音像のハウスの新曲もバシバシ公開していて(多分今年だけで100曲以上!)そっちも面白いです。
Koji Nakamura×食品まつり×沼澤尚『Humanity』
Spotifyのまとめによれば、自分が今年一番長く聴いていたアーティストは食品まつりらしい。毎年毎年「あなたが今年のトップアーティストは……Yellow Magic Orchestraです!」とか出て恥ずかしくてシェアしてなかったけど、食品まつりなら堂々と人に言える。私が一番聴いている音楽は、食品まつりです。
三者ぶつかり合うことのないサウンド、と言って有機的に調和し合うアンサンブルを奏でることもなく、「もの派」の展示のように、ただそこに並べて置かれた、しかし確実に同じ場所の空気を共有する、音のかたまり……。
このユニットでのライブも春先に大阪で観たが、MIDIなどで同期していないエレクトロニクス担当の2人+生ドラムという編成で、テンポを合わせるための段取りはどうしているのか?誰がイニシアチブを取ってるのか?と思い、食品まつりさん本人に聞いた所「沼澤さんに僕らが合わせて行って、たまに追いつかなくてズレたりする所が面白い」とのことで、なるほどなーと唸った。
ちなみに初冬の川崎郊外で行われたRAINBOW DISCO CLUBの番外編的な野外レイブ企画でも、食品まつりさんのライブを観たが、その時はめちゃくちゃBPMの早い4つ打ちになっていて驚いた。イベント自体が、深夜に行くほど生き残ってるのはバキバキの人のみなので、DJもその層に向けてチューニングせざるを得ずどんどんBPMが上がり、バキバキでない自分は芝生のなるべく湿ってなさそうなスペースを探して完全に横になって始発を待ったが、BPM130,140,150と上がって行った末に、食まつさんのキャリア的なルーツと言えるジューク/フットワークに戻っていったら面白いかもと思った。
思った以上にいろいろある!まだ半分くらい!年をまたいで後半は来年の自分に任せます!よいお年を~